福岡地方裁判所 昭和27年(ワ)568号 判決
原告 大衆水産株式会社
被告 門田徳市
一、主 文
被告は原告に対し金三十三万三千三百三十三円三十三銭及びこれに対する昭和二十七年三月二十日以降完済まで年六分の割合の金員を支払え。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は、これを三分し、その一を原告、その余を被告の負担とする。
この判決は原告において金十一万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金五十万円及びこれに対する昭和二十七年三月二十日以降完済まで年六分の割合の金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする」との判決並に担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は昭和二十七年二月十九日被告所有の漁船第十一共栄丸が農林漁区二七七区において機関に故障を生じ、航行不能に陥り漂流していた際、被告の代理人たる右共栄丸の漁撈長藤田利太の依頼に基きその救助を約し、原告所有の第一大衆丸、第二大衆丸をして操業を中止させて、右共栄丸を福岡港まで曳航せしめ、その船体、積荷等を安全ならしめて、これを救助した。而して右救助につき同年二月二十一日原被告間において協議の結果、被告は救助料として金五十万円を同月末日までに原告に対し支払う旨を約した。しかるに、被告はその支払をしないから、原告は右約旨に基き被告に対し右金員及びこれに対する弁済期の後である昭和二十七年三月二十日以降完済まで商法所定年六分の割合の金員の支払を求める。と述べ、被告の主張に対し被告主張事実中、第十一共栄丸が船舶法の適用を受ける登記船舶であることは認めるが、その余の点は否認する。本件救助がなされた際第十一共栄丸は既に漂流四日目で、救助がなければ積載していた生魚千四百箱は勿論船体をも失う危険に瀕していたのである。右救助の結果船舶価格金百四十万円余、積荷(生魚千四百箱)の価格金五十四万円余合計金百九十四万円余の損失を免れたのに反し、原告は予定操業日数四日の短縮を余儀なくされた結果この間の漁獲予想高六百八十箱この価格金四十万八千円(但し諸経費を差引いた金額)の利益を失い、その他船損料、重油代船員給料等合計金九万八千六百五十二円の損失を蒙つたのであつて、右の事情を考えると本件救助料は不当なものではない。と述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張事実中被告所有の第十一共栄丸が原告主張の日その主張の漁区において航行不能に陥り漂流していたこと、原告所有の第一、第二大衆丸が右共栄丸漁撈長の依頼により同船を福岡港まで曳航したことは認めるが、その余は否認する。被告は昭和二十七年二月二十一日訴外勝瀬常吉より原告が金五十万円の救助料を要求しているので支払つて貰いたい旨の交渉を受けたが、これを拒絶し、その後もこれを承諾した事実はない。
仮に原被告間に原告主張の金五十万円を支払う旨の契約が成立したとするも、右契約は第十一共栄丸の海難に際し、同船が救助される前(同船は昭和二十七年二月二十三日午前一時四十五分福岡港に入港した。)に締結されたものであり、かつ右共栄丸は船舶法の適用を受ける登記船舶であるから、商法第八百二条による右契約金額が不当に高額であることを理由にその減額を請求する。而して遠洋漁業に従事中の船舶が遭難した場合の救助料の額は、被救助船舶の所有者が漁船保険法に基く組合に加入しているときには、右船舶所有者が救助費として受領する保険金額を以て救助船舶の船主に支払われる救助料の最高限度額の基準とするのが北九州遠洋漁船保険組合に加入している遠洋漁業者間の慣習であるが、被告は当時右第十一共栄丸につき漁船保険法に基く漁船保険組合である北九州遠洋漁船保険組合に加入し、填補の範囲を全損及び救助費、保険価格百四十万円、保険金額、同額とする保険契約を締結していた結果、昭和二十七年六月十七日金八万三千四百八十七円の保険金(救助費損害金)の支払を受けたが、水産庁長官によつて決定された右金額の中第一大衆丸に対する救助費は金四万二千五百九十五円、第二大衆丸に対する救助費は金二万五千二百二十三円であるから右合計金六万七千八百十八円が本件の場合の妥当な救助料というべきである、と述べた。<立証省略>
三、理 由
原告所有の漁船第一、第二大衆丸が昭和二十七年二月十九日農林漁区二七七区において操業中、当時機関故障のため航行不能に陥り漂流中の被告所有の漁船第十一共栄丸(船舶法の適用を受ける登記船舶)を同船漁撈長の依頼により福岡港まで曳航して救助したことは当事者間に争がなく成立に争のない甲第一号証、証人広田虎一、谷脇三代一、藤田利太、武本尊輔の各証言によると漁撈長は海上において慣習上船主を代理する権限を有するものとされ、右共栄丸の救助は原被告を各代理して第一、第二大衆丸漁撈長谷脇三代一と第十一共栄丸漁撈長藤田利太間に締結された救助契約に基きなされたものであることを認めることができる。
原告は右救助に関し昭和二十七年二月二十一日原被告間に救助料を金五十万円、支払期日同月末日とする契約が成立した旨主張し、被告はこれを争うのでこの点につき判断するに、証人勝瀬常吉(第一、二回)中田英男、北村壮介、武本尊輔の各証言(但し、いずれも後記措信しない部分を除く)及び原告会社代表者土肥清一本人訊問の結果を綜合すると、原告会社は昭和二十七年二月二十日頃第一大衆丸から遭難中の第十一共栄丸を救助料金七十万円の約で福岡港まで曳航する旨の無電を受けたが、これが救助料に関し更に被告との交渉方を訴外勝瀬常吉に依頼し、右勝瀬は同月二十一日被告と交渉の末、救助料(船主の分の外船長及び船員の分をも包含する。)を金五十万円とすることにつき被告の承諾を得たが、契約書作成については当時原告会社代表者土肥清一が金六十万円を主張していた関係もあり、原告側の了解を得る必要上、金額欄「金五十万円」は後に記入することとし、この点の被告の了解の下に、当該欄を空欄としたまゝの契約書(甲第二号証)を作成し、その被告名下に被告の捺印を受け、翌日原告会社に相談したところ、原告会社も右金額を承諾したので、右契約書中の金額欄に被告の了解を得ていた「金五十万円」の記入がなされ、原告会社に交付された事実(甲第二号証中の「金五十万円」の記載が後になされたものであることは当事者間に争がない)が認められ(証人中田英男、北村壮介、勝瀬常吉(第二回)武本尊輔の各証言中右認定に牴触する部分は措信しない)、右認定の事実及びこれにより成立を認められる甲第二号証(なお同号証中被告名下の印影の成立は被告の認めるところである)を合せ考えると、原告主張の契約が原被告間に締結された事実を認めることができる。上叙の認定に反する証人門田シゲノ、日野昇の各証言及び被告本人訊問の結果は措信せず、他に右認定を左右し得る証拠はない。
そこで商法第八百二条に関する被告の主張につき考察するに、成立に争のない甲第四号証、乙第四号証の二によると、第一、第二大衆丸が第十一共栄丸の曳航を開始したのは昭和二十七年二月二十一日午前九時十分である、右共栄丸を曳航して福岡港に入港したのは同月二十三日午前一時四十分であることが認められるから、本件救助料に関する特約がなされた当時右第十一共栄丸はまだ曳航開始後間もない頃であつて未だ海難を脱却し相対的安全な状態に誘致されていないことは明かであるから、本件契約は海難に際し締結されたものと認むべきである。そこで更に進んで右救助料の額の適否につき考えるに前顕甲第四号証成立に争のない乙第三号証、証人藤田利太の証言及び被告本人訊問の結果を綜合すると、本件救助当時第十一共栄丸は既に遭難後四日を経過し、食糧、飲料水共に欠乏し、船の浸水も甚しく、本件救助がなさなければ如何なる事態が生ずるや計り難い危険な状態に瀕していたこと、而して右共栄丸船体の価格は約百四十万円であり、当時同船に積載していた鮮魚千三百箱は右救助の結果その腐敗を免れ、約五十万円で売却されたことが認められるから、本件救助によつて被告は約百九十万円の損失を免れたものというべきである。飜つて、前顕乙第四号証の二成立に争のない同号証の一、前掲証人広田虎一、(但し、後記措信しない部分を除く)谷脇三代一、藤田利太、武本尊輔の各証言及び原告会社代表者土肥清一本人訊問の結果並に弁論の全趣旨を綜合すると、第一、第二大衆丸の各漁撈長は当初第十一共栄丸の船員のみの救助を考えたが、同船漁撈長藤田利太の依頼により操業を中止し、福岡港まで曳航することとし、その際右共栄丸との間に操業中止による漁獲減少の損失を見込んで金七十万円の救助料(後に本件契約により金五十万円となつた。)を約した事情が認められ、又右救助の結果第一、第二大衆丸は予定操業日数四日の短縮を余儀なくされ、この為原告はその間の漁獲予想高最少四百箱(当時第一、第二大衆丸は操業十二日間で千二百箱の漁獲があつたことが認められるからこの点から一日最少百箱以上の漁獲が予想される。)この価格金三十二万円(一箱金八百円として計算)より必要経費金十二万円(一日金三万円)を差引き少くとも金二十万円の利益を失つた外、曳航費として最低金六万七千八百十八円の費用を要したことが認められる。右認定に反する乙第二号証の二、三証人広田虎一、日野昇の各証言及び被告本人訊問の結果は措信しない。
而して上叙認定の海難における危険の程度、救助の結果救助の為に要した労力及び費用その他の諸事情一切を斟酌すれば本件救助金額が著しく不相当なものとは到底認めることができない。
ところで本件救助料の中には船主の分の外船長及び船員の分をも包含することは前示認定のとおりである。成立に争のない乙第六号証の一、二によれば第一、第二大衆丸は共に汽船であることが認められるから、商法第八百五条により原告は右両船舶の所有者として救助料金五十万円の三分の二、すなわち金三十三万三千三百三十三円三十三銭についてのみの請求権を有するにすぎず、その余の船長及び船員の分についてはこれが請求権を有しないもといわなければならない。
しからば原告の本訴請求中被告に対し右金三十三万三千三百三十三円三十三銭及びこれに対する弁済期の後である昭和二十七年三月二十日以降完済まで商法所定年六分の割合の遅延損害金の支払を求める部分は正当であるから、これを認容すべきも、その余の部分は理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を各適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 鹿島重夫 大江健次郎 武谷二郎)